第118章 Another Story
「え…」
私の男装姿を見るなり、待ち合わせの相手は分かりやすく表情を崩した。彼のこんな間の抜けた声が聞けるのも、非常にレアだ。
フルーツサンドが美味しい喫茶店。先に着いていた彼が私の分も注文しておいてくれたのであろうそれが、テーブルに2つ並ぶ。
宝石のように光るフルーツが、純白の生クリームに埋もれている。それが見るからにふあふあのパンに挟まれていた。こんなのは、美味しいが確定しているではないか。
現在は昼の2時を回ったところ。朝と昼を食べ損ねた私にとって、それはあまりに目に毒であった。思わず釘付けになってしまっていると、皿ごとすっと引かれる。
「はい。まずは、おしぼりで手を拭いて。その後に、どうしてその格好で来たのか理由を話す。フルーツサンドは、それまでお預けね」
分かっていますよと、差し出されたおしぼりを受け取りながら口を尖らせる。
そんな私の様子を前にして、満足気に天はふんわりと微笑んだ。