第116章 心、重ねて
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次に出番を控えるのは、Re:valeだ。さすが国民的アイドルと言ったところか、この大舞台を前にしても堂々たる構え。今は岡崎兄弟と、何故か当然の如くそこにいる月雲了と談笑している。
心の準備は良いですか?なんていう私の言葉は、完全に蛇足だろうな。なんて思いながら、2人の背中へ勝手に気合を送りつける。
その瞬間。2人は同時に、くるっとこちらに向き直る。そして当たり前のようにこっちへと歩いて来たではないか。
「春人ちゃん!いまオレ達に気合送ってくれたでしょ!?」
「背中から、尋常ならざる愛を感じたよ」
『え、いや、まぁ…適度には送りましたけど。凄いですね、なんで分かるんですか』
この質問に、百と千は顔を見合わせる。それから声を揃えて、春人ちゃんのことだから。なんて殺し文句をお見舞いしてくるのだった。
「ねぇ、春人ちゃん。オレ達にも “アレ” ちょうだい!」
『あれ?』
「モチロン、元気になるおまじない!」
『ふふ、百は私がまじないなんてしなくても元気でしょう』
百はぷくっと頬を膨らませ、それでもいいから欲しいのだと、私なんかの言の葉をねだる。そんな彼の頬を、指先で軽くつつく。
『また、そんな可愛い顔をして。ステージに立てば、あんなに格好良いのに。どちらの貴方も魅力的ですけど、この後は どんな百が観れるのか今から楽しみで仕方がないです』
「〜〜っ、ふ、不意打ち狡い!うぅ…っ、もうこうなったらオレの全力パフォーマンスで、ステージ上から春人ちゃんのことメロメロにしちゃう!だから、覚悟しててね?」
私がにっこり頷くと、隣にいた千が肩を叩く。そして自分の顔を指差しした。どうやら、今度は自分の番だと言いたいらしい。
私から、千に贈る言葉など限られている。
『千。貴方から生み出された音の羅列を、全て聴きたいです。他でもない、2人の声で』
千はうっとりと恍惚の表情で微笑むと、やる気に満ちる百と共にステージへと歩みを進めた。