第114章 それは決して遠くない未来②
『楽は本当に、私の自慢の夫だよ。いつもありがとう』
「そうか?俺は当たり前のことしか言ってないと思うぜ?それに、あんただって俺にとって100点満点の奥さんだよ」
『へぇ。ふふ、どういうところが?』
「可愛くて、仕事が出来て料理も上手いだろ?あとは賢くて……」
『格好良い?』
「それだ!そこいらにいる男のアイドルに負けないくらい、男気があって顔が良い」
指をパチンと鳴らして断言した楽。私達は、顔を見合わせ声を出して笑い合う。
ひとしきり笑った後に、楽は私の隣に寄り添った。そして、まだ全く大きくもないお腹に温かな手を置いた。
「俺達のとこに来てくれて、ありがとうな。早く出てこいよ」
『もう。だから気が早いよ』
「そうか?」
『そうだよ。まだ影も写るか写らないか微妙なところなのに。
楽は、男の子と女の子どっちがいい?』
「どっちでもいい。どっちでも同じぐらい嬉しいよ」
『うん、私も。
女の子なら、どんな赤ちゃんが産まれて来てくれるのかな』
「あんたに似て、イイ女に決まってる」
『男の子なら?』
「そりゃ、俺に似てイイ男だろ」
『 “可愛い” をすっ飛ばさないで欲しいな…』
気が早いなんてものじゃない。楽は、私とお腹の子を置いて数キロ先を走っているみたいだ。彼には、私達の隣に並んでいてもらわなければ困るというのに。
「よし!御祝いに、何か美味いもんでも食いに出るか!」
『あー…えっと、それがね』
「ん?都合悪かったか?」
『実は私、産婦人科の帰りにスーパーに寄ったみたいで』
「いかに取り乱してたか伝わってくる文脈だな」
『そこで、一番高い蕎麦を買ってたみたいなんだよね。信州の生蕎麦を』
「祝う気満々だな」
『しかも、あの…3人前』
「実はあんたも しっかり喜んでたんじゃねえか!」
『あはは…そう、みたい。お腹に赤ちゃんがいるって分かったって、2人前食べられるわけないのにね』
「はは!いいよ、俺が2人前食う」
3人で、今よりももっと幸せになろう。楽は言って、私に寄り添った。
そんな私達の元に、無事 可愛い赤ちゃんが産まれて来てくれるのは、まだもう少だけ、先の話である。