第114章 それは決して遠くない未来②
部屋の電気もろくに点けていない、薄暗い部屋。私は俯き加減で、リビングの椅子に腰を下ろしていた。そんなところへ、姉鷺に送り届けてもらったであろう楽が帰宅する。
「ただい…うお、なんでこんな暗いんだ」
『おかえりなさい…』
明らかにいつもとは違う様子の私を前に、彼は目を見張る。そして、壁の電気スイッチを押してから対面に座った。心配そうに眉根を寄せ、待ち切れないとばかりに問い掛ける。
「一体どうしたんだ。もしかして、今日行ってきた病院で何か言われたのか?」
『うん。そう…』
「っ、嘘だろ、本当なのか…。い、いや!大丈夫だ。どんな現実も、俺とあんたなら受け入れられるし乗り越えられる。
覚悟なら、出来てるから。話してくれ、エリ」
楽が取り乱したのは、ほんの一瞬だった。私の為にすぐ様 平静を取り戻せる彼は、とても頼り甲斐があると思う。
手を優しく重ねられれば、重たかった口元も ふっと軽くなった。
『あの、ね…私…。妊娠、してるって』
楽は、目を丸々と大きくした。そして、ガタっと大きな音と共に勢い良く立ち上がる。
「お…おお!!お、男か!?女か!?」
『まだ、分からないよ楽…』
微熱が続いていること以外、特に普段と変わらずに過ごしていること。念の為に行った検査で、風邪菌が検出されていないのを見た医者が、私に問うたのだ。
直近の生理はいつだと。妊娠の可能性は、ありませんかと。
内科を出たその足で、紹介された近所の産婦人科へ赴いたのだ。
そこで決定的な答えを聞くまで、二週間も予定日を過ぎていたことに気付けなかったのは、さすがに自分の体に無頓着だったと反省した。