第113章 もう一生、離さない
『楽…。待ってろと言って飛び出して行きましたけど、一体これから何をするつもりなんだと思いますか?パパ』
「パパはやめろ。いやそれよりも、お前まさかここで1時間待つつもりか?」
『雑談していれば、1時間なんてすぐですよ』
「雑…っ。身内になると決まった途端、距離の詰め方が尋常ではないな」
『そう言わず、仲良くしてくださいよパ』
「次に私をパパと呼んだその瞬間、首が飛ぶと思え」
それは、物理的に?それとも解雇してやるという比喩であろうか。まぁどちらであっても困るので、悪ふざけはこの辺りにしておこうと思う。
「あいつの考えることなど、お前にも予想はつくだろう」
『あはは。まぁ、そうですね』
おそらく楽は今頃、急ピッチでプロポーズの準備をしているに違いない。だが、もうそろそろ日付も変わろうという頃合いだ。こんな時間から出来る準備など、限られてると思うのだが。それでも楽は、この機を逃すまいと、懸命に動いているのだろう。
『焦る必要なんてないのに。なんて、私には言えません。だって、急がないとと彼が思ってしまうようになったのは、私のせいだから。
ゆっくり準備を整えてる間に、私がまた消えるかもしれない。すぐ伝えないと、明日にはまた逃げられるかもしれない。楽がそんな思想に駆られてしまうトラウマを植え付けたのは私なんです。
それが分かっているのに、ただ彼をぼーっと待っているだけなのは辛いですね。まさに楽が頑張ってくれている今、私には何が出来るでしょうか』
「ふん。こんなにも簡単なことが分からないのか?
さっさと女の姿に戻って、ただ待っててやればいい。惚れた女の為に足掻くのは、男の喜びだ」
ただ待っているのは苦手だ。でもそんなふうに言われてしまっては、黙って従う他ない。私は苦笑いで頷いて、社長室を後にした。