第112章 幸せでいて
心が軽くなった。Lioだったという過去は、私が思っていたよりも私の心を締め付けていたらしい。もうそのことで、TRIGGERも八乙女プロも巻き込んだりしないのだ。というか、もう既に巻き込んだ訳なのだが。
とにかく、先日の記者会見から私の景色はガラリと変わった。
「エリ」
『春人。ですよ、楽。どうしましたか?もうとっくに帰ったと思ってました』
「あんたを待ってた」
『それは、わざわざどうも。じゃあ自宅まで送りますよ』
「もう飯は食ったのか?まだならこれから一緒にどこかへ」
『済ませましたよ』
「そうか。なら飲みに行かないか?この間、龍と良い店を見つけたから連れて行きたい」
『楽』
なんだ?という瞳さえ輝いているのだから、彼のことは憎めない。
『貴方、よくもまぁ男をそんなにも熱心に口説けますね』
「エリは男じゃないだろ」
『今の私は男でしょう』
「そうか。だったら男も口説くよ」
真顔で言うのだから、やはり憎めない。私は小さく息を吐いた。
楽のアプローチは、日々その熱烈さを増していた。人が人を好きになるのは自由だ。だから私に、楽の恋を邪魔する権利などありはしない。しかし、やはり懸念はあった。
彼はいつか、このトーンでカメラの前に出てしまうのではないかと。
いや、さすがにそれはないか。と思い直す。少しは楽のことを信用しないと、疑ってばかりでは信頼関係など築けない。
「なぁ、行こうぜ。バー」
『2人で?』
「あぁ」
『行きません』
「……そうか。じゃあ、また誘うな」
こうして楽の誘いを断る度、物凄く悪いことをしたような気分にさせられるのであった。