第110章 どんな時もそばで
「もし辛くなったら、途中で会場を抜けろよ」
『うん』
「俺達は、どこまでいっても君の味方だからね!」
『うん』
「ハンカチは持った?何も喉を通らないかもしれないけど、出来ればお腹に物は入れた方がいいよ。あと、携帯はいつでも出られようにしておくから、ボクらの声が聴きたくなったらいつでもかけて」
『うん』
TRIGGERの3人は、なかなか私を解放してくれない。バイクに跨ってから、一体どれほどの時間が過ぎただろう。しかしこの程度のことで彼らの気が少しでも済むというのなら、いくらだって付き合おう。
『記者会見、許してくれてありがとう。でも、楽と龍は突然オッケーくれたよね。猛烈に反対してた翌日に、やっぱりやっていいだなんて。どういう心境の変化だったの?』
「うっ」
「えっと、それはだな…」
「ボクが夜のうちに電話で説得したからだよ。エリの意思を尊重すべきだって」
「そ、そうそう!そうなんだ!」
「そうだったな!天からあれだけ力説されりゃ、折れざるを得なかったっつーか…!」
『ふぅん?』
楽と龍之介がなんだかアセアセしているようにも見えるが、まぁ許さないと言われ続けるよりも100倍良い。私は、ずっと手にしていたヘルメットをようやく装着する。
『じゃあ、行ってきます』
「何かあったら、すぐ言ってこいよ?」
「忘れずに水分補給もしてね!」
「もし記者から想定外の質問が飛んで来たら」
『あっはは!もう!いつまでたっても出発できないよ!』
被ったヘルメットを勢い良く外して叫んだ、その時だった。見慣れない、見るからに高級な黒塗りの車が八乙女プロの駐車場にやって来た。
「間に合ったみたいだな。エリ、迎えに来てやったぜ」