第105章 幸せになれると思う未来を掴み取るだけ
「前も言ったがな、こいつはどうあっても渡さない。どこの、誰にもだ」
「何の権限があって、あんたがそれを言うのか分からないな」
2人の顳顬(こめかみ) に、青筋が浮かんだような気がして私は呟く。
『わぁ。私いま、モテモテ気分を味わっちゃってますよ』
「否定はしないけど、他に言い方はなかった?」
天は冷たくあしらったが、なんとか場の空気を弛緩させることに成功した。この隙を突いて、トウマが他の3人を楽屋から連れ出したのだ。
4人が出て行った後すぐに、またトウマが顔を覗かせる。そして私に向かって、少しいいか?と問う。私は頷き、3人を残し廊下へと出た。
『中では話せない要件ですか?』
「いや、まぁな…。ここで話して良い話でもないかもしんねぇけどさ…」
トウマは辺りに人が居ないことを確認して、こそっと私に耳打ちする。
「ほら、結構大事(おおごお)になっただろ。Lioの件。大丈夫なのかって、あいつらとも話してたんだよ」
『あぁ…』
どうやら、ここにも先日のことで心配を掛けてしまった人がいたようだ。私は環に答えた時と同じように、平気だと告げる。すると、トウマはほっと胸を撫でた。
「そうか、なら良かったわ。俺らもだけど、宇津木さんも心配してたから。あと言葉にはしないけど多分、了さんも」
『はは。それは、なんとも信憑性の低い』
「いやいやマジだって!まぁ、それは置いといて。ヤバイことになる前に、俺らのこと頼ってくれよ?あんたの為に何かしたいって、俺達は思ってんだからな」
私が笑顔で頷くと、トウマはニカっと笑う。そして、他のメンバーと共に廊下の奥へと歩いて行った。