第103章 ただいま
ŹOOĻは、さきのライブでまた知名度を上げた。勿論、良い意味でだ。あのライブは、辛口で有名なアイドル評論家も唸るほどの会心の出来だったのだ。
彼らを求める声が増えれば、自ずと仕事量も増える。了の秘書からは解放された私だったが、それと差し引きしても以前より忙しい。
今日も、ŹOOĻには歌番収録の仕事が入っている。私は一人、局の廊下を足早に歩いていた。あと少し行けば、彼らの楽屋だ。きっと早く歌いたいと、ウズウズしているに違いない。
なんてことを考えていると、危うく曲がり角で人とぶつかりそうになってしまう。接触前に気付いたので、正面衝突は避けられた。しかし、その相手が誰なのかまでは気付けなかった。
「わっ!大丈夫ですか!?」
『っ、すみませ…!』
私と龍之介が驚きの声を発したのは、ほぼ同時であった。互いに、相手の顔を見て目を丸くする。
彼は慌てて、私を支えていた腕を高く上げた。
「び、びっくりした!!春人くんじゃないか!」
『まさか龍が出てくるとは、私も思ってませんでした…』
なんだろう。何とも言えない、微妙な空気が私達を包む。それから少しして、楽と天も姿を現した。龍之介はその奇妙な空気感を誤魔化すように、モゴモゴと口を動かす。
「えっ、と…。ŹOOĻ、忙しそうだよね。春人くんも、やっぱり大変なのかな?いや、そりゃ大変か…!なんていうか、ほら、ご飯とかちゃんと食べてるのかなって気になってさ!お肉だけじゃなくて、しっかり野菜も食べてる?」
『はい。さっきちょうど焼きそばを食べたのですが、ちゃんとキャベツとかも入ってましたよ』
「だからインスタントラーメンのかやくは、野菜にカウントしちゃ駄目なんだって前も言っただろう!?」
何故、焼きそばがUFOだとバレたのだろう。これが、元彼パワーという奴か。