第102章 ŹOOĻ!ŹOOĻ!ŹOOĻ!
扉を開けるが早いか、天の名を叫ぶのが早いか、私は部屋に飛び込んだ。
事故の衝撃で顔は赤黒く腫れ上がり、全身のいたる所からコードが伸び、医者と看護師が悲壮な顔で処置に当たっている。などと想像していたのだが、結局そのどれも当て嵌まりはしなかった。
天はただ、その硝子玉のような瞳を大きく見開き私を見た。上半身をベットから起こす様子は、普段の彼と何ら変わりはないように見える。
「え…、どうしてキミがここに」
『天…っ!!』
縺(もつ)れそうになる脚を懸命にバタつかせ、私は天に駆け寄った。そして倒れこむようにして彼の体を抱き締める。
『良かった…無事で、本当に!本当に…良かった』
「……ごめん。心配かけちゃったみたいで」
ごめんね。彼はもう一度 謝罪の言葉を口にして、私の背中に腕を回した。
冷静さを取り戻してきた私は、天の顔を両手で包んで確認する。
『顔に傷はないですね』
「キミ、そういうところ本当にキミだよね」
半目でこちらを見る天に、怪我の程度を確認する。詳しい検査はこれかららしいが、自覚症状としてあるのは軽い打ち身くらいのものだそうだ。頭も打っていないし、出血している箇所もないとのこと。
そこまで聞いて、ようやく私の心臓も落ち着いてくれた。
「ぶつかる寸前に、受け身を取ったから問題ないって言ったんだけど。病院側も気を利かせてくれたんだと思う。こうやって個室を用意してくれて、精密検査もすぐにしてくれるらしい。
でも、ちょっとオーバーに伝わっちゃったみたいだね」
『まぁ、何事もなくて何よりです』
「ふふ、でも本当に驚いた。キミが、事務所の人より早く駆け付けてくれるなんて思ってもみなかったから」
『私がいた場所と ここの立地。それに交通事情の関係ですよ』
法定速度を大幅に超過して駆け付けたことは、天には黙っておこうと思う。