第101章 運命の相手には、いつ会えるか分からない
いつまでそうしていられる訳もなく。後ろ髪ひかれる思いで、私はその場を後にした。
そして一旦は自宅へと帰ったのだが、すぐに外出した。あの家に居ても、1人になってしまったことを まざまざと自覚するだけだったから。
舞い戻ることとなったこの部屋にいると、今更になって涙が止まらない。
決して私を一人で泣かさないと言ったのは、どこの誰だったろうか。
とっくに日付は変わっていたが、私はツクモプロへとタクシーで向かう。大切な存在が この手から零れ落ちてしまった今、私に残されたものは仕事しかなかったからだ。
仕事の段取りも考えられるし、春人に化けることも忘れていない。自分でも嫌になるほど落ち着いていた。
こうも冷静でいられる事こそが、龍之介を心から想っていなかった証明なのではないかと。そんなふうに考えてしまう自分を、私は殺してやりたかった。
仕事部屋に着くと同時に、パソコンの電源を入れる。いつもなら紅茶かコーヒーを淹れるところであるが、今日はそんな気分になれなかった。しこたま泣いて、体内の水分は確かに失われているはずなのに。
デスクに着いて、どれくらい時間が経過しただろう。おそらく、そんなには経っていない。
開くはずのないドアが、開いた。
「こんな時間に、何してるんだ」
『それは、こちらの台詞です』
暗がりの廊下から姿を現したのは、虎於であった。
「あんた、TRIGGERと合流してただろ」
『見てきたみたいに言うんですね』
「え、あ、あぁ。ただのカンだ」
『そうですか。
それで、貴方の方はどうしてここに?』
聞けば、一度は4人とも帰宅したらしい。しかし了のワガママで、酒に付き合えと再度会社に呼び出された。そして、ジャンケンで負けた彼が最後まで社長様のお相手を務めたのだそうだ。
『…ここから社長室は、割と距離がありますよ』
「言わせたいのか?あんたがいるような気がして、わざわざ足を伸ばしたんだよ」
得意げにこちらを見て告げる虎於。何も言葉を返さないでいると、そのまま続けた。
「で?お前はどうした?」
『あぁ、やり残した仕事を思い出しまして。今日中に片付けようと』
「そうじゃない。俺が訊いたのは、何故そんなに赤い目をしてるのかって理由だ」