第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい
椅子を回し、体ごとでトウマの方へ向く。すると、少し間を置いてから彼もまた私の方へと体を向けてくれた。不思議そうに首を傾げるトウマ。私はそんな彼に、にこっと微笑んでから…
胸ぐらを掴んだ。
『いい加減に、目を覚ませよ。狗丸トウマ!
良い歌が歌えるくせに。努力することが嫌じゃないくせに。いつまでも見て見ぬ振り決め込んで逃げ続けるなんて。他の誰が許しても、この私が許さないから』
至近距離で、トウマの瞳を覗き込む。きついことを言っている自覚はある。もっと言葉を選ぼうと思えば、それも出来たろう。しかし私は信じている。この男なら、長年目を逸らしてきた現実さえもバネに、もっと跳躍してくれると。
……が、トウマの瞳は、見る見る内に潤んだいった。うるうると涙溜まる様子を前に、私の頭からは血の気が引いた。自然と胸ぐらを掴んでいた手からも力が抜ける。
「〜〜っ、」
『う…ぁ、ご、ごめん!!言い過ぎたよね!こんな言い方しなくても、良かった!ごめんトウマ!!』
「っち、が…」
どこからともなく、マスターがやって来る。
「…喧嘩でしたら、どうぞ表に出ていただいて」
『ち、違うんですよ〜!いや、何も違わないんですけど!』
止めることの出来ない涙を、ぐしぐしと袖で拭うトウマ。ハンカチを差し出したり、背中をさすってみたり、落ち着いてもらおうと私は懸命に考えた。
やがて何とか平静を取り戻した彼は、とうにぬるくなったグラスビールを見つめて語り始める。
「か、カッコ悪い…!ごめん、あんなふうに泣くつもり…全然なかったのに!!」
『ううん。私の方こそ、あんな言い方しか出来なくてごめんなさい…』
「いや、良いんだ。だって、全部…本当のことだから」