第99章 間違ってると思ったことは、間違ってるだろってそう言いたい

思い出してもらえたとはいえ、やはり大混乱は避けられなかった。男だと思っていた同僚が、実は女でしかも恩人であり想い人だった。そんなのは、きっと誰であってもパニックに陥る。とりあえず、春人の姿でいることが混乱を増長させているのは明白なので、私は女に戻る。

お待たせ。そう告げて隣に座った私を、トウマは見つめる。まじまじと凝視したり、遠慮して目を逸らしたり、何やら忙しそうだ。


『ふふ、相変わらず挙動不審』

「そう、言うなよ！いや、言わないで…くだ、さい？こっちはまだパニクってるんだ。いきなり、はいそうですか って飲み込めない、っつーか…」

『いいよ。落ち着くまで待つから。でも、慣れる為に会話は続けようか』

「えっ、と…じゃあ、まぁ挨拶から始めてみるか…は、はじめまして？」

『どうも、はじめまして。トウマ』


互いに はじめましてと口にしたは良いものの、早くもそこで会話が途切れてしまう。何とか会話を続けなければと、必死なトウマが私に初めての質問を投げかける。


「す、好きな、アイスの味は、何ですか！！」

『……っふ、あはは！名前よりも、先に訊くことかな！それ！』


つい、堪え切れずに声を上げ笑ってしまう。そんな私を見て、彼もまた少し困ったように笑った。

ひとしきり笑った後に落ち着きを取り戻した私は、目尻に溜まった涙を指で拭いながら、ようやく答える。
ラムレーズンと。