第98章 気付かないふりをするのがマナーでは?
おまけ②
●ナギとの通話
《 HELLO. 先日は、素晴らしい曲をプレゼントしていただき、ありがとうございました 》
『いえ。少しでも、心休まる瞬間があったなら幸いです』
《 心休まるどころか、ワタシは再び涙に濡れることになりましたが… 》
『はは。それは、なおのこと良かったです』
《 今、アナタのお時間を少し頂戴しても? 》
『えぇ。結構ですよ』
《 ワタシはベットへ横になるハルキに…アナタのことを問いました 》
『…そう、ですか。私のことなんて、彼は覚えていなかったでしょう』
《 いいえ。彼は、目を細めてこう言いました。アナタと出逢った春は、とても 美しかったと》
『え…』
《 ハルキは、覚えていました。白いヘッドフォンをした、可憐な少女のことを。そして、まるで桜の妖精が舞い降りたのかと思ったと言っていました。そんなアナタと共にメロディを追い掛けた日々は、今でも大切な、宝物だと… 》
『覚えて…いて、くれたんだ…』
《 彼は、アナタのことを忘れてなどいなかった。それから、ワタシがアナタと知り合いであると知った彼は、驚いていましたね。ですがすぐに、笑顔を浮かべ言いました。あぁ やはり、縁は巡り、回っている。だから世界は、こんなにも美しい 》
『……』
《 ハルキはアナタに、謝罪したいと言っていました。お別れを言えなくてごめん。出来るなら、これからも素晴らしい曲を、この美しい世界に生み出し続けて欲しい 》
『……っぅ、ごめん…なさい、今になって…涙が…!っ、桜さん…。ありが、とう…、ありがとう…っ』
《 …ワタシは、こんなにも悔しい思いをしたことがありません。電話越しでは、泣いているアナタを、抱き締めることが出来ませんから 》