第12章 会いたい。死ぬほど
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BAR Longhi's
私と楽は、バーカウンターに並んで座っていた。
仕事が終わる私を待ち構えるようにして、彼が待っていたのだ。
飲みたい気分だから、付き合えと。半ば強引に連れて来られてしまった。
『…バーくらい1人で来れるようにならないと。一人前の男とは言えませんよ』
知らんけど。
「べつに、1人で来ようと思えば来れる。ただ…やっぱり この店だけは別なんだよ」
楽の前に置かれたロックグラスの中の氷が、カランと音を立てて崩れた。
私は 彼の言葉に聞こえなかったふりをして、マスターから作ってもらったばかりのカーディナルを少しだけ口に含んだ。
「ここに来たら、嫌でも思い出すからな…」
何を…などと、野暮な事は聞かなかった。
悲しそうに目を伏せて 彼もウィスキーを一口、喉の奥へ押しやった。
『…2年も姿が見えない人を、よくそこまで想い続けられますね』
こんな姿…。まるで楽が一途な人間のようではないか。
「2年じゃねえよ。2年半だ」
その言葉を聞き、はっとした。彼が、私との初対面を覚えていた事に。てっきり、彼は覚えていないものだと思い込んでいたから。
『…ここでLioのステージを見たのが、初対面ではなかったのですね』
「あぁ。友達の…MAKAの楽屋で会った事がある。2年半前にな。それが俺とLioの初対面だ」
なぜ私に、自分とMAKAが恋人同士だった事を隠すのか。わざわざ友達だったと嘘をつく必要などないのに。
ちなみに、この時の私は。まだ楽の事を
MAKAの元彼で、ギャンブル好きで、6人の女と同時に付き合えるような軽薄な男だと勘違いしたままだったのだが。
そんな彼へ抱いた失礼な誤解が解けるのは、また しばらく先のお話…。