第95章 《閑話》とあるトップアイドルの息抜き?
『 〜〜〜っぷは、はぁー…。ん、もう一杯!』
一息に赤い液体を飲み干して、空になったワイングラスを掲げた。そしてすぐ様、お代わりを要求。
新しい酒を注ぐ代わりに、冷ややかな視線をくれるのは、我が元彼の大神万理である。
「はぁ…。青春の思い出って、儚いよな。あんなに可愛かった元カノが、今や立派な酒乱なんだから」
『それってさ、私がもう可愛くなくなったって言ってる?』
「俺の青春の全ては君だったよって、そう言ってる」
傾けた顔を、片手の平の上に乗せて妖艶に微笑んだ万理。私は とっくに中身のないグラスを、もう一度 煽る。
『…いつもは、こんな飲み方しない』
「分かってる。そんな飲み方したくなる何かがあったんだろ?ほら、何でも聞いてやるから。話せばきっと楽になるよ」
酒が飲みたいからと突然 呼び出されて、すぐに駆け付け こうして優しく笑いかけてくれる。これだけ出来る男が、この世に一体どれくらいいるのだろうか。
『イケメン…』
「やっと気付いたか。勿体ないことしたなって、思ったりしてる?」
『あはは。まぁ冗談は置いといて』
「こら」
『急な呼び出しに応えてくれて、ありがとうね』
「いや、気にしなくていいよ。エリが誰かに甘えたり、寄りかかったり出来るなんて。昔に比べたら大進歩だからな」
『その相手が、元カレでも?』
「元カレでも」
万理はこう言ってくれているが、人によっては良く思わないかもしれない。少なくとも、褒められるべき行為でないことは自覚している。しかし彼といると、ささくれ立った心が整う心地になるのだ。
『万理と話をしてると、不思議と落ち着くんだよね。ほっとする、というか』
「…ほっと、ね」
それは、嬉しさ半分。悲しさ半分かな。
そう言って彼は、自分のグラスに口を付けた。
『そういうところ、龍といる時に似てるかもしれない』
「え、いや お前それ。俺は良いとしても…」
『??』
「やっぱり、何でもない。俺が口を挟むことでもないし、2人が上手くいってるなら問題ないしな」
万理は、言いかけた何かを胸の内へ引っ込めた。