第94章 ほら、解決だろ
『ŹOOĻが勢いに乗っていることだけは認めましょう。ですが、断言します。
それは、一過性のものに過ぎない。貴方達は、ファンを舐め過ぎですよ』
確かに彼らには、目新しさがある。今迄にはなかった、優しくない、寄り添わないアイドル。それがムーブメントを巻き起こしたこともまた事実。
しかしそれは、長くは続かないだろう。慣れてしまえば、飽きられる。
ファンは、本気じゃないアイドルを本気で応援してくれるほど甘くない。ちゃんと、見ている。見定めている。
応援すべき対象が “ 本物 ” なのかどうかを。
「さっきから聞いてりゃな…あんた、ズレてんだよ」
しばらく沈黙していたトウマが、こちらを睨み付けて口を開いた。憎しみの篭ったその瞳を見れば、十二分に伝わってくる。これまで彼が、どれほど険しい道を歩んで来たのか。
「トップを獲るのに大切なのは、歌を愛する気持ちなんかじゃねえ。ファンを大切にする想いなんかでもねえ。努力だ?研鑽だ?そんなもんでもない!」
『だったら狗丸さんは、何だと思うんですか。アイドルとって、1番 大切なものは』
「決まってる。力だ。事務所の権力、強いコネ、優れたプロモーション。それさえあれば、どんなアイドルだって上へ行ける。
TRIGGERだって…そうやって成り上がったんじゃねぇか」
『馬鹿馬鹿しい』
「…なに!?」
ついつい漏らしてしまった嘲笑に、トウマは噛み付いた。私はすぐに弁明する。
『あぁ、違うんです。狗丸さんのことを馬鹿だと言ったわけではないんですよ』
「は?」
『馬鹿なのは、私です。
貴方達の歌を、もっと多くの人に聴いて欲しいと。一度でも願ってしまった私のことを言いました。
貴方達のステージを見て、本物だと。ŹOOĻのことを、好きだと思った自分が…馬鹿だった』
「…なに、言ってんだよ、お前…馬鹿じゃ ねぇの」
トウマが戸惑いながら そう告げたきり、車内には気不味い空気が垂れ込めた。