第89章 年季が違うからね
回り道をして、レッスン室に辿り着く。ダンスレッスンに打ち込んでいた3人は、思わぬ来訪者に目を丸くした。
天は、わざわざ来なくても良かったのに。なんて言っていたが、その表情は明るかった。相変わらず、彼は素直じゃない。
環は龍之介と。大和は楽と歓談している。私はレッスン室の壁に背を付けて、その光景を眺めていた。それはとても平和で、温かくて、幸せな気持ちにさせてくれた。
と。そこへ万理がやって来る。私と同じように壁へ背を預け、口を開く。
「エリ。ごめんな」
『え?何が?』
「ほら。さっきの俺の言葉、聞いちゃっただろ?大和くん達に、車で待ってろって言ってたの」
『でもそれは、万理の立場からすれば当たり前のことでしょ。何も気にしない』
「そう言ってもらえると、ちょっとは救われるよ。俺は、あの子達を守るのが仕事だから。本当は、今日ここへ来るのも反対したんだ。最悪、こっちも巻き込まれちゃうかもしれないよって」
当然の判断だろう。今のTRIGGERと仲良くするのは、どう考えても得策ではない。誰に何を言われ、影でどんな噂を流されるか分かったものじゃない。
「あっ。これだけは言っとくけど、彼らはそんな事 微塵も気にしてなかったから!あの3人とエリの様子を確認したい。もし出来るなら、元気付けてあげたいって。力説されちゃってさ」
『あはは。それで万理は、絆されちゃったと』
「その通り。でも、やっぱり来て良かった。今のあの6人の顔を見てたら、心の底からそう思ったよ」
万理は、再び目の前の光景へ視線を向ける。楽しそうに話す彼らを、まるで自分の弟達を見るように、優しい瞳に映すのだった。
「あと、エリの顔が見れて安心した」
『あはは。会いに来てくれて、ありがとう』
「本当に、思ったより元気そうで。でも、ちょっと残念かも」
『ん??何が?』
「弱ってる時に優しくしてつけ込む。恋愛の常套手段だろ?」
『あ、悪い顔。いけないんだ』
「はは、冗談だって。でも、本当にまずいと感じたら頼ってくれよ?とりあえず、今の段階で何か手伝える事はある?」
『そうやって恩を売って、後で見返りを求める。と』
「馬鹿。無償提供に決まってるだろ?」
『あはは。どうだか』
「信用ないなぁ」