第87章 こっち側は、私の領分だから
「おい。お前、ちょっと冷たいんじゃねぇのか。何年も一緒にやってきた仲間だろ」
『そうですね』
「なんで理由を聞かなかった?止めなかったんだよ!あんただって、もっと あいつと働きたかっただろ!」
ぐぅ。
私は、腹の音で返事をした。
怒りを露わにしていた楽は、拍子抜けした様子で、がっくりとソファへ座り込んだ。
「春人…こういう時は、そういう情けないのは勘弁してくれよ」
『仕方ないでしょう。お腹が空いたんですから』
「あのさ」
この部屋に来て、初めて龍之介が口を開いた。そして私の手に、そっと包みを乗せて言う。
「サンドイッチ、作ったんだ。
春人くん、朝ごはん食べずに出勤したから。きっとお腹空かせてるだろうなって思って」
『龍…』
「ん?どうして春人が朝飯食わずに家を出たって、龍が知ってるんだ」
「ほら、ありがたくもらったら?またキミの腹の虫が泣き出してしまう前にね」
『ですね。ありがとうございます。いただきますね』
「うん」
サンドイッチやおにぎりなら、パソコンを見ながらでも食べる事が出来る。忙しい私を思っての、龍之介の気遣いが嬉しい。
私は大口を開け、良い匂いのするそれに齧り付こうとした。その時。
部屋の扉が、勢いよく開け放たれた。
「中崎さん!大変なんです!」
『…どうされましたか』
私は、あんぐり開けていた口を閉じ、サンドイッチを包みに戻す。
飛び込むようにして部屋に入って来たのは、制作部部長だった。
「実は、来月のライブで販売するはずだったグッズの制作会社が、突然…お、降りるって言ってるんです!」
『は?』
「TRIGGERのグッズは作れないって…」
大の男が、涙目で訴える。そんな彼を前に。私を含め、メンバー達も、ただ見つめる事しか出来なかった。