第85章 かっけぇわ
「あー…いや、なんか、本当にすんません。こんな事…」
こんな事を、彼氏である龍之介に言っても、何の意味もない。そう思っていた俺に、彼は静かに告げる。
「ありがとう。そこまで本気で想われてるエリは、幸せだと思う。
それこそ、俺から ありがとうなんて言われても…大和くんは、複雑かもしれないけど。
それでも俺は、君がエリを好きになってくれた事、嬉しいから。だから…ありがとう」
「…んとに…お人好し」
「うーん…自覚はそんなにないんだけど、よく言われる かな」あはは
「つい こないだまで本気で好きだった奴を、急には嫌いにはなれそうにありません」
「うん。それは、理解出来るよ」
彼が、俺に正直な気持ちを話してくれるから。俺も、自分の中の本心を吐き出せる。
俺は龍之介に、もう少し伝えたい事がある。
「俺の分まで、幸せにしてやってくれ…とかは、言いません。長く一緒にいたら、泣かせる事も喧嘩する事もあるでしょうから。
ただ、見ててやって下さい。あいつ、TRIGGERの為となったら いくらだって無茶するでしょ」
「うん。分かったよ。任せて」
俺は、何とか作った渾身の笑顔を龍之介に向ける。彼は、胸に手を置いて しっかりと頷いて見せた。
その姿は堂々としていて、男の俺から見ても惚れ惚れするくらい格好良かった。
「…はぁ。クッソ…。イイ男なんだよなぁ。
たとえば あんたが俺ぐらい嫌な奴で、俺ぐらい格好悪くてダサい男だったら…
もうちょっとは、勝負してやろうって気になれたのかな」
「してみる?勝負」
「余裕っすねぇ。ほんと、かっけぇわ」
「余裕なんてない。でも、負ける気もないってだけだ。
それにね、大和くん。君は、格好悪くも ダサくも。まして、嫌な奴なんかじゃ絶対ないから。
格好良いよ、二階堂大和!」
「…ははっ、そりゃどーも」
どうか、このお人好し2人が これから歩む道が、幸多きものでありますように。
なんて、柄にもなく祈ったりしてみるのだった。
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