第85章 かっけぇわ
私の朝は早い。日課であるランニングと、しっかりとした朝食を摂る為。それに、様々なジャンルの業界誌をネットで漁る時間も大切だから。
特に朝食は大事だ。
自炊をサボりがちだった、一人暮らしの時とは違い。龍之介はほぼ毎朝、私の為に朝ご飯を用意してくれる。
お陰様で、食欲が無い朝でも美味しい食事にありついている今日だ。
他でもない私のパーフェクト彼氏も
“ 朝食は、その日1日の源だから。しっかり食べないとね! ” と、申していた。
『いただきます』
「はい、どうぞ」
『いつもごめんね。龍にばっかり作らせちゃって』
「好きでやってる事だから、気にしないで」
『でも、龍だって朝走りに行きたいんじゃない?』
「俺は、エリよりも朝はゆっくりだからね。走りたい気分の時は、君が家を出てから少し走ってるよ」
『そっか。ならいいんだけど』
私はサラダにドレッシングをかけ、龍之介の背中に言った。彼がくるりとこっちを振り返ると、紺色のエプロンがひらりとなびいた。
『……いい』
「何が?」
『龍のエプロン姿、超萌える』
「はは。見惚れてる暇、ないんじゃないか?」
爽やかに笑いながら、龍之介はこちらへ珈琲の入ったマグカップを差し出す。私はそれを受け取りながら、首をかしげる。
『龍を愛でることが、私の生き甲斐なのに?』
「もう。そんなナギくんみたいな事言って。
たしか今日、いつもよりも早く家を出るって言ってただろう?」
『……いま何時?』
サーっと血の気の引いた私に、龍之介はキッチンにあった時計を無言で向ける。
『やっばいやばい!ちょっとゆっくりし過ぎた!』
2枚のパンの間にハムエッグを挟み、豪快にかじる。とろりと垂れた黄身が指を汚したので、その指を口の中に入れて すぐに引き抜く。
ちゅぱっと音がして、指は綺麗になった。