第82章 TRIGGERを独り占めだね
『でも安心して下さい。飲み水なら、私が確保してみせます』
「いやお前が活躍すんのかよ」
『活躍?楽は変な事を言いますね。べつに誰が手を挙げたっていいでしょう』
「あ、いや。まぁ、そうか」
楽は、私が名乗り出た事を不思議がっている様子だった。この緊急事態に、よもや自分が活躍したいとでも言うのだろうか。いつから彼は、そのような承認欲求の塊に成り果てたのか。
「それで春人くん。水をどうやって手に入れるの?」
『ふふふ。よくぞ聞いてくれました。
まずは、この砂浜に穴を掘ります』
私は、海から少し離れた場所を見繕い、穴を掘っていく。ある程度の深さまで到達したら、今度はその穴に海水をかけ、十分に湿らせる。
『そして、この湿った穴の1番底に貝殻を置いて、と』
「なるほどな」
『はい!あとは 穴にビニールを被せて、最後にビニール中央に小石を置けば、飲み水製造装置の完成です』
ビニールで蓋をされた湿った穴の中に太陽光が当たると、水蒸気が生まれる。やがて水蒸気は結露となり、ビニールに付着。その結露が集まって、最終的に貝殻の中に落ちて行く。という仕組みだ。
『ほら、ぼーっとしてないで誰かビニールを持って来て下さい』
「…プロデューサー。ビニールって?」
『何でもいいですよ。ビニール袋でも何でも』
「だから、そのビニール袋はどこにあるの?」
『そんなもの、スーパーに行けば3円くらいで買えるでしょう』
「……スーパー?」
『……』
私達は悲しい瞳で、掘ったばかりの穴を、見つめ続けるのだった…