第11章 本当に…ありがとう
誰かの声で起こされる。なんて、いつぶりだろうか。
その日の朝 私を目覚まさせたのは、ハツラツとした 快活な声。
「あーうん!そうそう!今週号のMONDAYにさ、TRIGGERの十龍之介載っちゃったでしょ?
うん、一緒に記事に出てたそのモデルの子 探してるんだよね!
…おぉっ!さっすが!頼りになるーっ♪おっけ!よろしくねん」
大きな窓の方を向いて、ボクサーパンツ一丁の百が電話をしていた。その内容に、寝起きにも関わらず 私は神経を尖らせる。
「うんうんっ勿論!また飲み行こう行こう!オレ肉が良いなー?
あははっ、うん!じゃ またねー!」
通話を終えた彼が、くるりとこちらへ向き直る。後ろから朝日が差していて逆光が眩しかった。
「あ、エリちゃん起きた?おはよう」
ピョンとベットに飛び乗ってきた百は、私の額にキスを落とす。
『…おはようございます』
「……や、やっぱり…もどってる」ガクゥ
私の丁寧語を聞いて、悲壮感たっぷりに膝を折る百。そんな彼の肩を掴むとガクガクと揺さぶった。
『そんな事よりっ、今の電話は!』
「あぁ、そうそう。ちょっと待ってね」
百はチェストボードの上のメモ用紙に、サラサラとペンを走らせる。やがて、男と女の名前が記された。
「この人が、龍とMONDAYに載ったモデル。読モだって。
で、こっちの男の人の名前が 教えてくれた人。モデル業界の かなりの情報通。聞いたら、今日スタジオで彼女の撮影があるんだって!ラッキーだよね!
オレの名前を出せば、撮影見学出来るように話 通しといてあげるよ」
な、なんという手際の良さだろう!緊急を要している為 かなりありがたいが。
『ここまでしてもらって…良いんですか?ありがとうございます』
「いいって!これくらいはサービスさせてよ!」
ニコっと彼が笑うと、悪戯っ子のような可愛らしい犬歯がチラリと覗いた。