第80章 嘘吐き
彼がTRIGGERのメイクを担当してくれるようになって、もうかなり経つ。
腕が良いからお願いしている訳だが、下世話な会話が多いのが たまに傷だ。
「中崎さん、こっち来て下さい。俺の天才的な腕で それ、完璧に消し去ってやりますよ」
『いいんですか?』
「いいですいいです。たくさん笑わせてもらった御礼ですから!」
龍之介から注意を逸らそうと、彼が満足しそうな返答をしていただけだったが。棚からぼた餅が落ちて来た。
繰り返すが、腕は確かだ。彼に任せれば、まるで魔法で消したみたいに 跡は見えなくなるだろう。
お願いします。と、男に背中を向ける。
了解〜。と、軽い答えを返し、私の後ろ髪をはらって うなじを露出させる。
「……なんてこった」
『??』
「キスマークどころか、これは…
がっつりと、歯型が…付いちゃってますね」
『……あぁ』
思い当たる節は、ある。
『消せます?』
「消せますよ。消せますけどね!
お宅の子猫ちゃん、些か暴れん坊過ぎやしませんか」
『…まぁ うちにいるのは、子猫ではなく…
そうですね…肉食獣の類なんで。
たまにね、全力で戯れついてくるんですよ。可愛いでしょう?』
「肉食獣に全力で戯れつかれたら、死にゃしにませんかね」
男は本気の心配顔で、私のうなじにコンシーラーを乗せていくのであった。
そして、一足早く仕上がった天が 龍之介に歩み寄る。
「……その真っ赤な顔見られたら、バレるよ。気を付けて。猛獣さん」
「……〜〜〜っ」
龍之介は、顔を両手で覆って、ただひたすらに辱めから耐えていた。