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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第75章 俺に、思い出をくれないか




ここから立ち去る前、万理はこう残した。

次に会う時は、万理はMEZZO"のマネージャー。私はTRIGGERのプロデューサーとして。変に気負う事なく、自然に接して欲しいと。

私達が次に会うのは、きっと現場だろう。
顔を合わせた時には、ごく普通に笑えるように。声を詰まらせず話せるように。気持ちの整理をしておかなければ。

ただ、それは今すぐに とはいかない。

私は、去り行く万理の背中を見送る事すら出来なかった。この胸の痛みに折り合いを付けるのには、それなりの時間を要するだろう。


しばらく、車内で膝を抱える。
それでもなんとか気持ちを奮い立たせ、顔を上げた。すると、さっきまで彼が座っていたシートに、何か置かれているのに気が付いた。


『??』


それは、数枚の紙切れ。
拾い上げて見てみると、そこには音符が並んでいた。私はすぐに、これが楽譜であると悟る。


エリへ。
たったそれだけの、メッセージだ。だが、久し振りに見る 彼の端正な字面。
また胸が締め付けられるのには、その短い文言で十分だった。


“ 桜舞う ”
そうタイトル付けされた、この曲は…
万理が私の為に作った歌だった。

私はすぐに思い至る。
10年前に彼と行ったファミレスで、私が見せてくれとせがんだ譜面があった。
おそらくは、あの時の曲こそが この “ 桜舞う ” ではないだろうか。

万理と再会を果たしてから2週間。彼が、すぐに私の元へ来なかった理由…
それはきっと、この曲を仕上げていたからに違いない。


パズルのピースがはまっていくのと同時に、視界が涙でぼやけてしまう。
早く、万理が私に残した歌を読みたい。歌詞を知りたいのに。音符を拾いたいのに。

私に出来るのは、涙で楽譜が汚れないようにする事だけだった。


『っ……ぅ、万 理…っ!』

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