第74章 高校生の時の、俺の彼女
【side 大神万理】
もしもいま、10数年ぶりに彼女に再会出来たら 何を伝えよう。俺は、何を伝えたい?
エリがいなくなってすぐ、千と出逢い。一緒に音楽をやっていた事を伝えようか。
…いや。今や Re:valeは、国民的アイドルだ。百と千は、ワンセットで当たり前。それなのに、千の元相方をやってた なんて伝えたら、彼女を驚かせてしまうだろうな。
じゃあやはり、IDOLiSH7やMEZZO"を支える立場に就いている事を伝えようか。
彼ら7人も、今では大きくなった。立派なアイドルに成長した。そんな彼らと一緒に働いていると知ったら、エリはどんな顔をするだろう。
エリ。
君を失ってから、紆余曲折あったけれど。
俺は、まだ音楽の隣にいるよ。
君は?
どこかで、マイクを握っているのだろうか。華麗にステップを踏んでいるのだろうか。
それは、俺には分からないけれど。
君の隣にも、素敵な音楽が満ちていればいい。
そう、勝手ながら祈ってる。
「ただいま戻りました」
「おかえり。2人とも」
「たっだいまー」
俺は、笑顔で壮五を迎え入れた。彼のすぐ後ろには、環もいる。
演者共有のケータリングコーナーに出向いていた2人は、自分達の楽屋に戻って来た。
「どうだった?好みの物は見つけた?」
「あったあった!見てバンちゃん!じゃーん!」
「こら環くん、食べ物を振り回したら駄目だよ」
彼は、戦利品であるアメリカンドッグを天高く掲げて見せた。それを、壮五が優しくたしなめる。
そんな微笑ましい2人を眺めながら、俺は打ったばかりの支離滅裂な文面を、デリートした。
いくら伝えたい文章をまとめてみても、俺にはこのメールを 彼女に送るすべなど、ないのだから。