第73章 《閑話》とある社長の気まぐれ
スタートホールへ赴き、備え付けられた スタート抽選器で順番を決める。
割り箸サイズの鉄の棒。私が引いた その先端には、一本線が入っていた。社長の物には二本線。百には三番線だ。
すなわち、私、社長、百の順にスタートする。
「春人ちゃんっ!頑張れー!もし失敗しちゃっても、春人ちゃん可愛いからオマケしちゃう!」
「やかましいぞ!
ゴルフにオマケなんぞあるか!!」
『……』
(2人ともうるさいな)
この、先っちょが重くて よくしなる鉄の棒。その名もゴルフクラブ。
シンプルな作りに見えて、これが非常によく出来ている。力を抜けば抜くほど、真っ直ぐによく飛ぶのだ。
私は、ティーの上に乗せたボールに狙いを定める。
…ふと思うところがあり、一度顔を上げた。
『あの、社長…』
「どうした」
『今日のこれって…接待ゴルフなんですか』
「ふん。私の気分を良くしたら、お前に何か得があるのか?」
『えっと…例えば、臨時ボーナスが出る。とか』
ちょっとした、面白くもないジョークのつもりだった。しかし八乙女宗助は、色眼鏡の奥の瞳をにやりと歪ませた。
「いいだろう。ハンデ無しで私に勝てたら、ボーナスでも何でもくれてやろう」
「わーぉ!パパさん太っ腹!
あっ、もしかしてそれってオレにも適用される!?」
「どうして私がお前にボーナスをくれてやらにゃならんのだ!」
勝てば、ボーナス。
勝てば、臨時収入。
私の頭の中には、その甘い響きがこだましていた。
ぎゅっとクラブを握り直し、顔を上げた。
『中崎春人……いきます!!』