第9章 抱いて差し上げましょうか?
その日は夜中まで、作業は続いた。
結論から言えば…タレント名鑑からピックアップされた女性の中から、それらしい人物は見つけられなかった。
悲しそうな龍之介。せっかくの魅力的な瞳が伏せられてしまっている。
「もしかすると…モデルって言っても、読モとか…。末端の方なのかも知れないね」
「あぁ。だとしたら、タレント名鑑には載ってない。候補は星の数ほどいるな」
天と楽の言う通り、もしそうなら このやり方で見つけるのは難しいだろう。
『…そうですね。
とりあえず今日は、もう帰って休みましょう。明日は撮影ですから』
明日もTRIGGERの付き人は姉鷺に任せ、私は別行動だ。
天の、挑発的な瞳がキラリとこちらを捉える。
「ついに諦めた?」
『まさか。別の手段を使うまでです』
そう。女性を探す目的自体は変えるつもりは無い。
「おい。別の手段って?」
『言わば、最終手段 ですかね』
パソコンをシャットダウンする。すると 私が退室するのを察した彼らも、椅子から立ち上がった。
「なんだそりゃ。説明になってねぇだろ」
「でも…その方法が駄目なら、もう諦めるしか無い。って事だよな」
私は龍之介の言葉には答えずに、廊下に出る。そして彼らとは反対方向に一歩。
『大丈夫です。きっとなんとか出来ます。では。お疲れ様でした。ゆっくり休んで下さいね』
特に龍之介の方を見ながらそう告げて、私は歩き出した。
「……きっとなんとか出来る、か。珍しいな。あいつがあそこまではっきり断言するの」
「何の根拠も無いけど、彼ならなんとかしてくれるって。思わせてくれるんだよね」
「うん。だけど、俺は心配だよ。春人くんは、平気で無茶をするから。すでに俺のせいで…彼には迷惑をかけてるのに。もうこれ以上は…」
廊下の角を曲がると、私はすぐに仕事用の携帯をポケットから取り出す。
そしてアドレス帳を開き あいうえお検索で、さ行から…春原百瀬の名前を見つけ出し タップする。
深夜なので出てくれるかどうか、という私の心配をよそに 彼はたったの2コールで電話に出てくれた。
『もしもし。夜分すみません、中崎です。急ぎでご相談したい事が…』