第71章 ピュイっ!
私の足は、一人でに玄関へと向かった。重い両開きの扉を、勢い良く引く。ビュウっという冷たい風と共に、大量の雪が中へ流れ込んで来る。
右腕を顔に当て、吹雪を遮る。辺りを見回すが、龍之介の姿はない。私は、足元に目線を凝らした。
そこには、微かではあるが足跡が起こされている。しかし、まるで砂漠の砂のようにサラサラの雪だ。すぐに強風に煽られ、足元の雪がブワっと舞い上がる。すると、その僅かな痕跡すら消え去ってしまう…
「っ、おい春人!どうだ!」
「龍はいた?!」
楽と天が、室内に舞い込む吹雪を浴び叫ぶ。私は一度 扉を閉めて、彼らに向き直った。
『姿はありませんでしたが、龍が出て行ったのは間違いないようです』
「マジかよ…!」
『楽。懐中電灯を探して、持って来て下さい』
「え?」
『早く』
「わ、分かった」
楽は私の剣幕に押され、リビングへと駆け出した。
『貴方は、撮影用機材の側にあるリュックの中から、ビニール紐を持って来て下さい。それと、ありったけの防寒具を』
「わ、分かったっす!」
スタッフは、楽の後ろを追うように駆け出した。
2人きりになった私と天。彼は、こちらに向き直り語気を強めて言う。
「何を考えてるの」
『龍を探しに行く』
「この吹雪の中を?」
『この吹雪だから行く』
「……はぁ」
天は諦めたように溜息を吐いて、視線を落とす。
「…バーベキューの熊事件の時もそうだった。キミは、ボクの言う事なんて何もきいてくれない。
だから…今回も行くんでしょう?ボクがいくら止めたって」
『今回は、私が蒔いた種だから。私が、あんな馬鹿な事しなかったら龍は外になんて行かなかった。
だから、ごめん。私は、自分が死んでも龍だけは見つけ出す』
天は、私の顔をそっと両手で包み込んだ。
「死んでも、なんて言わないで。
キミも、龍も。絶対に無事でここへ戻って。それで、今回のことは笑い話にするんだ。いいね?」
私は、天の手に自分の手を重ね、頷いた。