第68章 あなた…意外と馬鹿なんですね
え?これって、ファールなのでは?倒れた姿勢で、顔を横に向け審判を見やる。
審判は、ボールに注意を向けていて こちらを見ていない。
と、その時。私の視界に、ある物が大きく映り込んだ。それは、相手の脚だ。私の顔面めがけ、大きく振り上げられた脚。今にもこちらに向かって、振り下ろされようとしている。
起き上がる時間すらも残されていないだろう。私は来たる衝撃に備えて固く目を瞑った。
「っ!!中崎さん!」
一織の声が聞こえた気がする。その後、ガツっ!と、痛々しく鈍い音が鼓膜を震わせた。
しかし…いつまで待っても、痛みは襲って来なかった。
恐る恐る目を開けば、誰かが私と男の間に立っていた。
「お前……絶対に、やってはいけない事をやったな」
龍之介だった。彼が、自らの脚で 相手の蹴りを塞いでくれたのだ。
彼らしくない威圧的で低い声。
「言ったよな…。もし彼女に何かあったら俺は…自分でも、どうなるか分からないって」
「ひ、ひぃっ」彼女?
龍之介が、相手の胸倉を両手で掴めば、男の体は軽く宙に浮いた。そして、ようやく他のメンバーや審判も駆け付ける。
「こ、こら!何やってる!今すぐに離すんだ!」
「ぐ、ぐるじぃ…」
審判は、龍之介と男の仲裁に入る。その間に百と三月は、転がったままの私の側へと駆け寄った。
「おい春人!大丈夫か!?」
「春人ちゃんがピクリとも動かないよー!起きて!大丈夫!?」
『……ふふ、…あはは』
「ちょ、春人…?あんた何笑って」
『あははははっ!
はぁ…なるほどね。分かった。私、分かりましたよ』
狂ってしまったかのように高笑いをする私を見て、2人は固まっていた。