第67章 左手は添えるだけ
いよいよキックオフの瞬間が訪れる。センターサークルに並び、審判の笛の音を合図に礼をする。
私達は、あらかじめ決めてあったポジションに着いた。ちなみに、ゴールキーパーを務めるのは加藤である。
キックオフの後、最初にボールを持ったのは百だった。ボールをしっかりと足で確保し、高々と腕を上げて中指で天を指す。
そして、士気を上げる為の声を張り上げる。
「よっしゃー!締まって行こーう!!」
「「おおっ!!」」
『…お、おぅ…!』
漫画やアニメでしか見た事のない世界が、目の前に広がっている。改めて自分がここに立っている事実に違和感を持ってしまい、私だけ返事が遅れたのだった。
1点目は、実にあっけなく赤チームが決める事となる。
ボールを持った百は、何の苦労もなくマークに付いた男を躱す。そして華麗なドリブルを持ってしてスルスルと相手ゴールへ近付くと、近くで構えていた三月にパス。
少し高いのでは?と思ったパスだったが、見事な跳躍で三月はそれを受けた。その後、最高のポジションにいる龍之介にパスを出す。
自陣ゴールの近くでボールを持たれたくないと、相手選手は考える。龍之介からボールを奪おうとするも、体格の良い彼は ちょっとやそっとじゃ崩せない。
チラッと視線を這わせ、百の位置を確認する。どうやら、もう一度百にボールを戻そうと考えているらしい。しかし百は叫ぶ。
「龍!そのまま行っちゃえー!」
それが合図となり、龍之介はボールをゴールに叩き込んだ。
すぐに審判の笛が鳴る。
「「「イエーーーイ!!」」」
「っ、クソ!」
「おい!こいつら上手ぇぞ!」
悪態を吐く敵と、ハイタッチをするアイドル達。
『………あれ?
これ、私 いらないのでは?』