第9章 抱いて差し上げましょうか?
私はダンボールを抱え、彼らがいる事務所の扉を足で開ける。
『今日もお疲れ様でした』
「春人くん、お疲れ様」
重たいダンボールを机の上に置く。そしてあらかじめ用意していた紙袋3つの中に、ダンボールから取り出した手紙の束を それぞれ詰めた。
『これは八乙女さんの分です』
「サンキュ」
そして、天と龍之介にも同じように 手紙が入った紙袋を手渡す。
これは 彼らに宛てられたファンレターだ。一週間ごとに渡しているのだが。日毎にその量を増していく。
昨年デビューしたばかりのアイドルが、この快進撃は異常と言えよう。もうすぐに、TRIGGERをテレビで見ない日は無くなると思う。
「まだ、ダンボールに残ってるんじゃない?」
天が目ざとく、底にある手紙を指差した。
『あぁ…これは、私宛てです』
「「「は?」」」
実は先日の学園祭で行った公演を観ていた客の口コミから、あの眠り姫が注目を集めたのだ。
そのせいで、私に興味を持った人が少なからずいたということ。まぁそのおかげで、天の人気も上がったので良しとしよう。
「なにそれ。ファンレターを貰うプロデューサーなんて、聞いたことないんだけど」
『…私に言われましても』
天は嫌味っぽく言うも、その言葉にはそんなに悪意は含まれていなかった。
私と彼は、あの即興劇を共に乗り越えた戦友なのだ。…なんとなくそんな絆で繋がっているような気も するような、しないような。
「はは。春人くんは格好良いからな」
こちらは、全く悪意のカケラも無い龍之介。
『私だって…メディアへの露出なんて、御免被りたいですよ』