第63章 彼氏でしょ
ソファに座り、膝の上で指を組む天。その表情からは、微かに疲労の色が窺える。ハードスケジュールに、さすがの天も疲れてしまったろうか。
『撮影が終われば、休みを確保しますね』
「べつに大丈夫」
『私にまで嘘をつかなくても良いでしょう』
「全く疲れてないと言ったら嘘になるけど。本当に平気だから。
仕事でいくら疲弊したとしても、家に帰れば癒してくれる人がいるからね」
『…へぇ。でも、それにしては浮かない顔をしていましたよ?』
「あぁ、それは…」
ぽつり言った天の表情は、より陰る。疲れが原因でないとすると、一体どうしたのだろうか。
まるで この後に、嫌な用事でも待ち構えているかのようだ。
「ちょっと人に会ってくるから、キミはここで待ってて」
『誰に会いに行くんですか?』
「……千さん」
『それなら私も一緒に行きますよ。それとも、私が居ては話せないような話をするつもりですか?』
「べつに、そういうわけじゃないけど」
なるほど。天が浮かない表情をしていたのは、千に会いに行く予定があったからか。
天と千の仲は、決して悪くない。悪くはないのだが…
『貴方達2人を放置すると、たまにピリリとした空気になるでしょう。あれ、不思議ですよね。仲が悪いわけではないのに』
「誰が原因でそうなると思ってるの」はぁ
『え?』
「何もないよ」
呆れた様子で言って、天は重そうな腰を上げた。明らかに気が進まないと顔に書いてある。
千に呼ばれているのか、天が出向かなければならない理由があるのか。それは分からないが、とにかく私達は連れ添って先輩の楽屋へと向かうこととなった。