第63章 彼氏でしょ
「ボクは、同棲 未経験だ。付け焼き刃であっても、身をもって体感しておけば演技にリアリティが出ると思う」
『たしかに』
「たしかにって!男と同棲しても意味ねぇだろ!」
『女装します』
「で、でも!それはどうかな!?俺は、いくら役作りの為だからってそこまでする必要はないと思う」
「それは龍が決める事じゃないでしょ。どうなのプロデューサー。
仕事の為、ひいてはTRIGGERの為に、ボクと暮らせる?」
6つの目が、こちらへ向けられるのを感じる。私は目を閉じ、思慮に耽る。
いかに天の演技力が高いとはいえ、経験した事のない芝居をするのはハードルが高いかもしれない。私と1つ屋根の下で過ごすという体験が、彼の演技の糧になるのならば…
迷う理由など無い。
『断る理由はありません。今日から早速、同棲しましょう』
「ちょ、春人くん!?」
「お前…TRIGGERの為なら清々しいぐらい思い切り良いよな」
「ありがとう。今日からよろしくね。プロデューサー」
『こちらこそ。一緒に頑張りましょうね』
ほっとしたように微笑む天の隣で、龍之介が難しい顔をしている。やがて、意を決したように私の前へ歩み出た。
「あの…その、春人くん。
今度 俺も…ドラマで、ある役を演じるんだけど」
『あぁ、そうでしたね。どんな役でしたっけ?すみません。天の撮影の方が早い時期にあるので、まだ台本を確認出来ていなくて』
「実は、俺の方も彼女と同棲をする役なんだ。でも、俺も天と同じで同棲の経験がないから…」
『なるほど。いいですよ。天の後で良ければ、手伝いましょうか』
当然、その役柄に私も合わせにいく必要がある。天馬の同棲相手は、普通の一般女性だ。だから、特に演技をしなくてもありのままの私で問題ないだろう。
龍之介の場合は、どうだろうか。
『それで?貴方と同棲する上で、私はどんな役柄を演じれば良いんです?』
「SM嬢の彼女」
『ごめんなさい、お役に立てない』
さすがに、その独特過ぎる役柄の代打は、私には無理だ。
断られた龍之介は、悲しげに瞳を伏せてしまった。