第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
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翌日。
自宅の前に、社用車が停車する。中に乗り込むと、既に天と楽がシートに着いていた。見慣れた光景だが、今日 迎えに出向いてくれたのはエリではない。
既に事務所で作業に追われている彼女の代わりに、姉鷺が迎えに来てくれたのだ。
「アンタ達、昨日は何かお祝いしたの?」
「あぁ。4人ですき焼き食ったよ」
「あら。いいわねぇ」
「姉鷺さんも、仕事の都合が付けば一緒にお祝い出来たんですけどね。残念です」
「その気持ちだけで、アタシは嬉しいわ。ありがと龍。
でもねぇ、ほら。アタシくらい綺麗で仕事が出来るキャリアウーマン、世間がほっとかないのよ。だから、もし次誘ってもらった時も時間を作れるかどうか…まぁでも、顔だけは出すようにしてあげるから、声はかけてちょうだい?出来るだけ行くようにするから。いい?分かった?」
「は、はぁ…分かりました」
次回も声を掛けてもらえる前提で、つらつらと言葉を並べる姉鷺。その言葉の端々に、昨夜も本当は参加したかったのだと窺える。
が。天と楽は、おそらく途中からもう聞いてすらいない。天は車窓から見える景色を目で追っていたし、楽に至っては あくびをしながら伸びをしていた。
「すき焼きは美味しかった?」
姉鷺のその一言で、天と楽はシートから背中を浮かせた。
「美味しかったです。でも、プロデューサーが」
「そうなんだよ聞いてくれ姉鷺!あいつさ、すき焼きにマロニー入れるんだぜ。信じられねぇだろ?」
「ちょっと楽。それ、いまボクが言おうとしたんだけど。人が話してる途中で言葉被せないで」
「は?べつにどっちが言ったっていいだろ」
朝から睨み合う2人。エリの話を、2人とも自分の口からしたかったのだろう。喧嘩はよくないが、原因が微笑ましいので一旦止めずにスルーする。
ハンドルを握る姉鷺が、楽しそうでいいわねぇ。と、羨ましそうに零すのだった。