第62章 俺は君にとって、ただの都合の良い男だったのか!
【side 十龍之介】
申し合わせた訳ではないが、俺達は自ずと同じ目的地に向かって歩いていた。
それは、Re:valeの楽屋だ。エリを迎えに、という理由もそうだが。挨拶も兼ねて顔を出しておこうと思う。
廊下を行きながら、ある考えが頭を掠める。
百も千も、春人の性別を知っていると、エリは以前言っていたが。俺が彼女の正体を知った事は、今から会う2人は気付いているのだろうか。
「お、扉がちょっと開いてるぜ」
「……」
「ふ、2人とも!盗み聞きなんて良くな」
「龍。静かに……
ボク達の話をしてるみたい」
こっそりと楽屋のRe:valeの扉に張り付く2人。俺は咄嗟に止めたのだが、自分達の話をしていると聞いて、いけない好奇心が膨らんでしまう。
エリには悪いと思いつつも、俺も2人の側で身を縮める。すると、中から微かに声が聞こえてきた。
《TRIGGERでは、駄目なんです。Re:valeのお2人でないと》
《へぇ、君が僕らの事をそこまで想ってくれてるなんて》
《モモちゃん感激!》
漏れ聞こえたのは、耳を塞ぎたくなるような内容だった。思わず、顔を見合わせる。
「…聞き間違い。って事はねぇよな」
「3人揃って聞き間違い?ありえない」
「そんな…嘘、だろう…春人くん」
心が、どうか間違いであってくれと勝手に願った。もう盗み聞きが悪い事だなんて言ってられない。
とにかく、もう少し話の続きを聞かないと。もうその一事しか考えられなかった。