第61章 束縛強い男みたいになってねぇか?
メイクとヘアセットが完了する。目を閉じて 担当と談笑しているだけで、身なりを整えてもらえるのだから ありがたい話だ。
こうやって他人に化粧なりをしてもらう度に、芸能人なんだな と実感する。
ただ、なんでもかんでも世話してもらえる事に慣れてしまっては いけないと思っている。日々感謝だ。
「ありがとうございました。
あれ…春人はどこ行ったんだ?さっきまで ここにいたよな」
「あ!中崎さんなら、さっきRe:valeのお2人に拉致…じゃ、なかった。お2人と一緒にこの部屋を出られましたよ?」
「拉致られてんじゃねぇか…」
俺は呟き、龍之介は苦笑していた。
天は、顔に笑顔を貼り付けている。スタッフやメイクさんの前だから抑えてはいるが、明らかに苛立っている様子。
「ありえない。どうして彼は いつもいつも、あの2人に ほいほいと付いて行くんだろう。ひょっとしてプロデューサー、前世は2人の犬か何かだったの?餌付けする方も問題あるけど、骨ガム貰ったくらいで尻尾振って付いて行くプロデューサーもプロデューサーだ。2人もそう思うでしょ」
「骨ガム好きなんじゃねぇの?」
「ならボクは霜降り肉をあげるよ」
「天も餌付けする方向なんだね…」
天は、珍しく憤慨していた。しかしどれだけ怒っていようと、廊下でスタッフとすれ違う時は エンジェルスマイルだ。
ニコっと笑って会釈をすれば、男も女も天を見て頬を染めた。
「……天」
「なに」
「お前。そんなふうに怒ったり笑ったりして、顔の筋肉疲れないのか?」
「これくらいで疲れるような表情筋は持ち合わせてない。
キミはいつも同じしかめ面で楽そうだよね。もう少し育ててみたら?」
「は?俺の表情筋なめんな」
「こーら、喧嘩しない。2人とも、そんなに顔の筋肉が欲しいんだったら、俺が育ててあげるから」
「ふぅん。どうやって?」
「え…っと、水をあげたり、肥料を撒いたり?」
「表情筋は野菜じゃねぇぞ、龍」
←