第1章 もしかしなくても、これって脅迫ってヤツですか?
『そろそろ眠い…、ふぁ』
欠伸を我慢出来ずにこぼしてしまう。
「こら!もう少しシャキッとしなさいよ!」
姉鷺はそう言うが、こちとら朝から夜遅くまでみっちりと労働してきた身なのである。そりゃ疲れも溜まる。
「後はお前の名前だが」
社長は最初に渡した私の名刺に、初めて視線を落とす。
「そうね。苗字は別として、名前の方は さすがに今のままってわけにはいかないわ」
今の名刺には、中崎エリ。そう記されている。
これでは、いくら見た目を男にしても 名前で女だとバレてしまうだろう。
「別に珍しくも無い苗字は、今のままでいいだろう」
ありふれた苗字で悪かったな。
『じゃあ、春人。中崎春人でお願いします』
口にしたその偽名は、即時採用された。
「違和感無いわね。いいんじゃないかしら。それで名刺作っちゃうわね。
急ぎで依頼して…まぁ明日の昼には届くと思うわ」
『お願いします』
業界人たるもの、名刺がなくては何も始まらない。そんなことより…
アイドルでもなく、プロデューサーの身であるのに芸名の様な物が必要とは…。
今更ながら、妙な事に巻き込まれてしまったものである。
『あの、じゃあ私はこれで…もう眠さが限界です』
今度はなんとか欠伸を噛み殺し、やっとの事で社長室を後にした。
すると、慌てた姉鷺が私の後を追って来た。