第59章 凄く綺麗ですね!
「なぁ。じゃあなんで、七瀬はエリの名字を知ってたんだ?」
「『う……』」
一難去って、また一難。鋭い楽の視線が、私達2人を襲った。陸をこれ以上悩ませたくはない。ここは、私がなんとか知恵を絞り出す。
『た、正しくは初対面じゃなかったかも…!私達、以前 会った事があるの。えっと、そのー…
ゆ、夢の中で!!』
「そ…そうなんです!あはっはは…夢の中では、どうもお世話になりました」
「んな事あるわけないだろ。何言ってんだ」
それを楽が言うのかっ!!この逃げ文句は、他でもない この男から拝借した物だというのに!!
【34章 754ページ】
なんて突っ込みを口にしたいのを ぐっと堪える。真顔で言い放った楽が憎い…。
と、そこへ助け舟を出してくれたのは ナギであった。
「ワタシには、起こり得る奇跡だと思いますよ。レディとの出会いは、いつも唐突に。そしてドラマティックと相場が決まっているのです。
八乙女氏には、そのようなロマンティックで夢のような出逢いは、経験ありませんか?」
「……俺にも、あるよ。そんな夢のような邂逅。まぁ、あれは夢なんかじゃなくて、たしかな現実だったけどな」
楽は、寂しげに視線を落として言った。横からその儚げな表情を見つめる。
一体、誰との出逢いを思い起こしているのか。彼のこの横顔を見れば、手に取るように分かってしまうのだった。