第59章 凄く綺麗ですね!
ほどなくして映画館に到着した。平日の昼間とはいえ、やはり中にはそれなりに人がいる。楽の存在に周りが気付いてしまうのでないかと心配だったが、意外と大丈夫そうだ。
「何が観たい?」
『うーん。私はどのジャンルも好きだよ。楽は何か観たいのある?』
「俺か?俺は…エリが観たい奴」
『また、そういう事を真顔で…』
私は楽を視界から外すようにして、時刻表を見上げる。羅列されたタイトルの中で、ある映画が目に飛び込んで来た。
私はそこを指差して、楽に告げる。
『TRIGGERの八乙女楽 主演の恋愛映画があるね。ふふ。私、これが観たいな〜 なんて』
「いいよ」
『はは。さすがに自分の出た映画をスクリーンで観るのは…
って、いいの!?』
「いいよ。エリが観たいって言ってくれるなら」
楽は、こちらが溶けてしまいそうなくらい甘い微笑みを浮かべていた。
彼が、マスクとサングラスをしていて良かったと、思わず感謝してしまう。そうでないと、きっと私は赤面してしまったに違いないから。
『あ、ありがとう…。じゃあ私、チケット取ってくるね!』
「お、おい」
急ぎ足で、チケット発行機の前へと移動する。そして 早まった鼓動を落ち着けながら、お札を挿入…しようとした手を、楽に掴まれた。
「待てよ。なんで あんたが当たり前みたいにチケット買おうとしてるんだ」
『なんでって……あぁ、なんでだろうねー…』
つい、体が勝手に動いてしまったのだ。何故なら、こういう雑用、チケットの手配や準備関係は、私の普段の仕事だから。
アイドル本人の手を煩わせないよう、先回りして動くのが癖になっているのだ。
『く、癖で…』
「男前な癖だな」
楽は笑いながら、自分の財布を取り出した。