第56章 見てない!見てない見てないよ!
私が戻ると、龍之介は立ち上がって待っていてくれた。
改めて彼の前に立つと、私は息を飲んだ。
「どうかした?」
『いや…龍って、こんなに大きかったんだと思って』
彼の身長は、190センチ。インチキをしていない私の身長とは、約25センチも差があるのだ。
こうして、初めて本当の自分で相対して分かる、彼の大きさ。それだけで、龍之介がまるで知らない人みたい。
「あっ、本当だ!春人く…エリちゃん、いつもより小さいね!」
『ふふ。名前、呼びずらそうだね。
好きな呼び方をしたらいいよ。春人くん でも、春人でも、春人ちゃん でも。エリでも、エリちゃん でも』
「…じゃあ 君が女の子の時は、エリって呼んでもいい?」
『うん。いいよ』
「いきなり女の子を呼び捨てにするのはどうかなって思ったんだけど。
天も、君の事をそう呼んでいたから」
どうして天の呼び方に倣うのか。そんな野暮な事は聞かなかった。理由なら、なんとなく分かる。
きっと彼は…
「俺も、天みたいにエリと仲良くなりたいんだ」
『わ…私達は、仲良しでしょ、とっくに!』
「はは。そう思ってくれてるなら嬉しいけど…」
彼は、もしかしたら こう続けたかったのかもしれない。
“ まだ足りない ” と。
『とりあえず…座って話そうか。龍は背が高いから。立って話すと、必然的に見上げる姿勢になって首が痛い』
「あっ、ごめん!気が付かなくて」
『謝る事ないでしょ?背が高いのは龍の長所!
それとも何?私の首の為に頭削って、背を低くしてくれる?』
「う、うーーん……削るんだったら足の方で!」
私達は冗談を言い合いながら、椅子に腰掛けた。