第55章 “ お約束 ” の においがプンプンしますな!
部屋へ戻った楽と龍之介は、瓶ビールで乾杯を始めた。明日の朝は早い為、飲み過ぎないように釘を刺しておく。
楽しそうにワイワイ飲み始めた2人から少し離れ、私と天は小声で話す。
「キミは飲まないの?」
『今日は禁酒です。この後どんな “ ベタ ” な お約束が襲って来るかもしれないんで』
「良い心掛けだね」
今夜は、メンバーと共に私もこの部屋で一夜を過ごす。一応は襖で仕切ることが出来るものの、一部屋には違いない。
だから、今日はぐっすり熟睡は出来ないだろう。さらしもウィッグも取れない。化粧も落とせない状況では、せいぜい仮眠が良いところだろう。
薄っすらと顔を赤らめた2人は、部屋を仕切ろうとする私を見て首を傾げた。しかし天は そんな彼らに、もうボクらは休むから。とだけ告げて、ピシャリと襖を閉めてしまった。
私と天は、並んだ布団の上にごろりと寝転ぶ。隣からは、抑え気味な声が漏れ聞こえてくる。きっと、丸窓から外を見上げ、月見酒でもしているのだろう。
瞳を閉じて、楽と龍之介の声を拾う。ここからでは、会話内容までは聞き取れない。しかし、今では聞き慣れた2人の低い声は 単純に心地良かった。
「おやすみ」
近くから、凛とした声が聞こえた。ゆっくりとそちらを向くと、天が私に微笑みかけていた。
彼はこちらに手を伸ばし、1度だけ私の頬を撫ぜた。指先から溢れる優しさを感じながら、私は再び目を閉じる。
そして、小さく唇を動かした。
『ん…おやすみ なさい』