第54章 もう全部諦めて、僕に抱かれろよ
『まったく…貴方、いつもは一体どうやって起きてるんですか』
「モモとか おかりんが、頑張ってくれてる」
『貴方も頑張って下さいよ…』
Re:vale 様。そう書かれた紙が貼ってある個室へと到着。ようやっと私の御役目も終わりということだ。
色々と苦労もあったが、楽しかった気持ちの方が優に大きい。私は改めて彼に向き直る。
『千さん。ありがとうございました。私にとっても、良い旅でしたよ』
「そう。じゃあ、また行こうね」
『次回は是非、早めの連絡をお待ちしています』
「うん。覚えておく」
後ろ髪を引かれる思いで、彼に背を向けると。千は私の腕を掴んだ。
何か言い残した事でもあるのだろうか。首を傾げた私に、彼は問い掛ける。
「あのさ…。もしもの話だけど」
『??』
「昨日、もしTRIGGERに大きな仕事が入っていたら君は…
それでも、僕を選んでくれた?」
どうして千は、あえて こんな質問を投げ掛けるのだろう。わざと、自分を傷付けたいみたいだ。
意図が分からない以上、私は正直に答えるしかない。
『いいえ』
これはきっと、千が望む答えではないはずだ。
案の定、彼の目には悲しみの影がよぎった。
「…はは。やっぱり君は、優しくない。な」
しかし。それはほんの一瞬だけで、すぐに笑顔に変わる。それは、清々しいような、どこか吹っ切れたような、爽やかな笑顔だった。
「ごめん。当たり前の事を、聞いた」
『……いえ。優しいことが言えなくて、ごめんなさい』
「いや…。それでも昨日の僕は、多分 世界で1番幸せだったよ。
だから、ありがとう」
その笑顔見た時、私はなんとなく分かった。悟った。
あぁ。もう彼が 私を求める事は、今後一切ないのだろうな。と。
今の彼に、どんな言葉を残していくのが正解なのだろう。
いや、きっと正解でも不正解でも、私の本心をここへ置いていくのがベストなのだろう。
『…じゃあいつか、本物の幸せを掴んでね。千』
私の切なる願いを聞いた彼は、長い銀髪を揺らしながら 頼りなく微笑んだ。