第54章 もう全部諦めて、僕に抱かれろよ
『じゃあ、明日の朝は容赦なく叩き起こすから』
「優しくしてね」
『千がちゃんと起きたらね。おやすみ』
部屋に配置された電気のスイッチを、全部オフにする。しかし、不思議なくらいに室内は明るかった。不思議に思い光源を探ると、それは窓の方にあった。
秋夜の大きな月が、空高くにぽっかりと浮かんでいる。障子を閉めようかとも思ったが、丸窓から覗く月があまりに綺麗で閉めるのはやめた。
とりあえず千から何か言われるまでは、このままにしておこう。
私は、自分の布団に潜り込む。瞳を閉じれば、今日の出来事が次々に思い出された。
まさか、千と京都でこんなに楽しい思い出を作れるとは思っていなかった。
京都で見る千も、凄く綺麗で。格好良くて。それで、とても温かくて…。
ん?温かい?
『ちょ、ちょちょちょ、千!何してんの!』
「え?何って」
なんと、隣の布団にいたはずの千が。いつの間にかこちらの布団の中にいるではないか。
もぞもぞと体を動かして、今ではすっかり私の上で四つん這い状態だ。
「もしかして、このまま寝るつもりだった?冗談だろう…」
『いや、寝るつもりじゃなかったけど!寝るつもりだと思い直したって言うか』
最初はヤル気満々でした。でも自分の勘違いだと分かったので、大人しく寝る事にしました。
なんて、説明出来る訳がない。
「ふふ…あぁ、そうだね。僕が変な事をするつもりだって…君、ずっと思ってたでしょう」
『え…!ゆ、千、気付いて』
「気付いてた。あと、今日 何度も何度も、エリちゃんが僕の顔を見てドキドキしてたのも。気付いてたよ」
さっきまでは、神様みたいに綺麗だと思っていたのに。いま私の上で ほくそ笑む男は、悪魔のようだ。
でも、やっぱり綺麗なのは変わらない。
『ぅ…っ、恥ずかし…、もう、無理!千…もう、いっそのこと殺して〜っ』
「いいよ。何度だって、殺してあげる。これから、布団の上でね」