第53章 隣にいるのは君が良いな
『ま、そもそも時間的に無理ですけどね』
座敷遊びは、夜と相場が決まっているのだ。そんな時間まで京都にいれば、今日中に帰れない。
「そうかな?どうしても座敷遊びがしたいなら、舞妓さんを宿に呼べばいいじゃないか」
『…は?宿?』
「まぁ僕は君が隣にいてくれるなら、舞妓さんはべつに」
『ちょっ待って宿!?』
敬語を外した途端、高い声が出てしまう。これだから春人の時には常に丁寧語で話すようにしていたのに。
「え?言ってなかった?一泊だって」
『聞いてませんよ…!大体 明日の貴方の予定はっ、歌番生撮りって言ってたでしょう!』
「よく覚えてるね。明日は、12時にN局」
と 言うことは、だ。私は彼をN局に送り届けてからの出勤になるのか?明日の午前のスケジュールはどうなってたっけ。いやいやそもそも、私がそこまで千に付き合う必要があるか?
彼を宿に送り届けて、私だけ新幹線に飛び乗れば良いのではないだろうか。
「知ってると思うけど、僕は朝が凄く苦手だ。というか、1人で早起き出来る気はしてない」
『ですよね』
明日の午後出勤が確定した。
『せめて、もう少し早く教えて下さいよ…!』
「言ったつもりだったんだ。ごめん」
『素直に謝られたら許さざるを得ないっ!』
すぐに姉鷺に電話し、共にスケジュールを調整。そんな必死の私を横目で見つめる千。まるで可哀想な社畜を見るような視線を送ってくるのだった。
『言っときますけど…これが、普通の社会人の姿ですからね?貴方が特殊なんですからね』
「そうね。社会人って大変だ」