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引き金をひいたのは【アイナナ夢】

第53章 隣にいるのは君が良いな




私の朝は早い。日課であるランニングと、しっかりとした朝食を摂る為だ。

特に朝食は大切だ。自炊こそサボりがちだが、食欲が無くてもなるべく量を食べる。
“ 夕食は誰かに分け与えなさい。昼食は出来るなら食べなさい。朝食は奪ってでも食べなさい。”
と、死んだお婆ちゃんがよく言っていた。


ランニングも食事も終わったら、私は中崎春人に変わる。
もう秋も深まって、クールヴィズシーズンも終わってしまった。またネクタイの季節が始まったのだ。衣装タンスに並ぶネクタイの中から、細身で黒いタイをチョイス。
これを結ぶのも、もう手馴れたものだ。


私は、バイク通勤だ。
近くにある、契約済み駐輪場へと徒歩で向かう。

そんな…いつもと変わらない朝。だと思っていた。しかし、今日は少しだけ様子が違った。


『……』
(あの車…見慣れないな。ランニングの時も停まってたし、どうして あそこから動かない?何をやってるんだろう)


黒塗りの、ボックスカー。中も相当広いことが、外から見るだけで分かる。
何をするでも無く停車を続ける、その怪しげな車。視線を動かすだけで、さりげなく様子を伺う。ガラス窓のスモークは強く、中は一切見えなかった。

帰宅してまだいるようなら、警察に連絡してみようか。と、車から視線を外した その時だ。
車内から、屈強な男2人が飛び出した。


『!!』


黒服、サングラス、インカム。まるでSPのような見た目をした男達は、あっという間に私を取り囲んだ。

とりあえず鞄を地面に置いて、構えを取る。


『…誰ですか』

「詳しくは申し上げられません」

『私に何か用ですか』

「車内に御同行願います」


まさかの拉致案件。
それも、八乙女事務所の時のそれとは、比べ物にならないくらい横暴なやり方だ。まさか武力に物を言わせてくるとは。

おそらく、私がこう言うと…


『嫌だと言ったら?』

「多少 手荒になってしまいますが、車内にお連れいたします」


やはり。思った通りの答えが返って来た。


『…私、割と真面目な人間なんですよ』

「「??」」

『ですから…こんな事で、無遅刻無欠席の経歴に傷を付けたくないんです』

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