第51章 腹いせに変なとこ触ってやる
『今はオンライン麻雀が主流ですが、やはりこうして誰かと向かい合って打つのが良いですね』
「ですなぁ。この手に牌が馴染む感じ、麻雀打ってるって気になるわ」
「…なんだか、差し障りのない会話も、あなた達がしていると妙に警戒してしまいますね」
「腹の内、探り合ってるんでしょ。どうせ」
天の言った通りだった。大和の手の動き、視線、牌を入れ替える頻度。それらを観察している。声のトーンはいつもと変わりない。手牌の良し悪しを悟らせない。やはり、大和は麻雀に慣れていると感じる。
「そんなに見つめられたら照れちゃうなぁ。お兄さん、ドキドキしちゃう」
『なっ、なにを馬鹿な事をっ』
私の指先が、手牌に触れる。すると、1番端の牌が表向きに倒れてしまう。“ 西 ” という私の牌が、全員の目に晒される事となった。
「!」
(西…!あれがエリの待ちなのか!?いや待て。あいつの事だ。あんなドジをやらかす筈がない。まさか罠か?いやいや、罠と見せかけて…)
『……』
(大和、悩んでるな)
先ほど、私が牌を倒したのはフェイク!わざとだ。だが、待ちでも何でもない。実際は、心底どうでもいい いつでも切れる牌。大和は、そんな何の意味もない牌に意味を見出そうと躍起になっている。
どうやら私の作戦は成功したようだ。
「ツモ」
言ったのは、天である。
全員の視線が、そこへ集まる。
『天!やはり貴方は天才です!』
「ちょっとやめてよ。ただのピンフドラ1だから」
「ダマテンかよ、リーチくらいかけてくれよなー初心者らしく」
「ダマテン?とは、何ですか?」
「黙ってテンパイの略。リーチ状態のくせに、あえてリーチ宣言しないで、誰かが上がり牌捨てるのをこっそり待ってたんだよ」
少しだが、点棒が動いた。しかし、これくらいの点差移動では、勝負が決まったとは言えない。
次のラウンドへ、勝負は持ち越しだ。