第50章 お慕い申し上げておりました
4つも下の相手にマウントとって、俺は何がしたいんだ。
足を組み替えて、目を閉じて。あの夜を思い出す。
「エリの、女の顔。見たことないだろ?」
ゆっくりと目を開けると、天の顔に かっと赤みが差すのが見えた。俺の言葉の意味を、適切に理解したのだろう。
こんな内容を他人に話すこと自体、異常だ。分かってはいても、もう止められない。
「信じられないくらい白くて、柔らかくて甘くて。何度も俺の名前呼んで、高い声で 何回も何回も…もっとって、俺を求め」
テーブルの向こう側から、天は俺の胸ぐらを掴んだ。その見た目からは想像も付かない力。
さらに強く引かれて、俺の足はテーブルにぶつかった。卓上に並ぶ缶や皿が ガチャンと音を立てる。
「今すぐに、その口を閉じろ」
「へぇ。随分とお口が悪いな。プリンス様がそんな汚い口きいちゃ駄目でしょ?ファンが泣いちゃうぞー」
「ここにファンはいない。今ここにいるのは、腐った虫だけだ」
「おいおい。虫どころか腐ってんのかよ。さすがに酷」
「二度と、その口でエリの名前を呼ばないで。その目にエリを映さないで」
「そりゃ聞けねぇ相談ってやつだな。
そんな無茶な要求しちゃう辺りが原因だろ。だから、エリに男として見てもらえねぇんだよ。お子ちゃま天くん?」
左手で胸ぐらを掴んだまま、右手を振り上げた天。
殴られれば、少しは冷えるだろうか?
血が上って熱くなった頭も。エリを想えば、簡単に熱くなる胸の内も。