第50章 お慕い申し上げておりました
俺の本音を聞いた天。初めて鉄壁の仮面が揺らいだ。
少しだけ大きくした瞳をゆっくりと閉じた。そして、対面のソファに腰を下ろした。
「残念だよ。期待してた答えとは、大きく違った」
「あ、そ。あんたが期待してた答えって?」
「…そうだね。ボクの本気に気付いたキミは、恐れをなしてこう言うんだ。
“ 勝てる見込みのない勝負からは撤退することにしよう ” って」
「はは!相変わらずの自信家だよな、あんた。
勝てる見込みのない勝負…か。たとえ本当にそうだったとしても、引けねぇな。
悪いけど、こっちはかなり前からマジなんだわ」
「…予想していた中でも、最悪の答えだ」
足を組み直して、天は薄っすらと笑った。その笑みは、まるで俺を挑発しているかのようだった。
そして、今の俺にそれを受け流す心の余裕はない。
目の前にあった空き缶を手に取って、力を込める。するとそれは、いとも簡単に歪な形へと姿を変えた。
「つか、あんたさ。俺の方が分が悪いみたいな言い方してくれてっけど、それ 本気で言ってるわけ?」
「彼女にただ会うことさえ ままならないキミよりは、旗色は悪くないと思うけどね。
エリとはパートナーだ。いつだって一緒にいるし、ボクが ただ一言。来てって言えば、彼女は地球の裏側からだって会いに来てくれる」
「へぇ…驚いた。
案外、エリのこと分かってねぇのな。九条」
明らかに目付きをキツくした天は、どういう意味?と低く言った。
だが、その顔が物語っている。痛いところを突かれた、と。
自分でも気付いてるようだが、あえて俺は それを言葉にする。
「だからさぁ、あいつは パートナーを恋人に選ぶような奴じゃねぇだろ。ってこと。
エリは、TRIGGERを愛してる。本気で世界一のアイドルにしようと打ち込んでる。
そんな絶対的な目標を前に…あんたの気持ちは、邪魔でしかない」