第48章 《閑話》とあるアイドルの誕生日
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【side 十龍之介】
『龍…!龍っ、お願いです、私の手を、握ってもらえませんか』
「勿論いいよ。ほら、これでいい?」
『あぁ、貴方の手は大きくて温かくて、凄く落ち着きます』
「俺の手で良ければ、いつでもいくらでも貸してあげる。だから…」
『落ちませんように落ちませんように落ちませんように落ちませんようにっ!』
「周りの乗客が不安になるような呪文を呟くのはやめようか春人くん!!」
どうやら彼は、飛行機が大の苦手らしい。というか、高い所が苦手らしいのだ。
その割には、窓際の席を陣取った。理由を聞けば、自分がどれくらい高い場所にいるのか目視出来る位置にいないと、より不安になる。と、よく分からない理屈を口にした。
右手で しっかりと俺の手を握り、左手は手摺をガッチリと掴んでいた。
「ははっ!天下無敵のプロデューサーにも、苦手な物ってあるんですねぇ」
「そうみたいです。俺もさっき初めて知ったんですけど」
話しかけて来たのは、今日の撮影を担当してくれるカメラマンの男性。彼とは何度か仕事を一緒にしたことがある。年は若いが カメラの腕はピカイチで、春人もよく褒めていた。
しかし、春人はいま誰かと会話出来る状態ではない。ただ青い空の遠くをじっと見つめ、小さく肩を震わせていた。
「そうだ!こんな春人さんの姿珍しいから、1枚撮っとこうかな!それで、春人ファンのスタッフ達にも見せてやろうっと!」
「…あの……それ、やめて もらえませんか」
「ひっ、」
自覚はしていなかったが どうやら俺の今の表情は、それなりに “ ヤバイ ” ものだったらしい。
普通に微笑んでいたつもりだったのだが、カメラマンは顔を青くして退散した。